壊さない間合い

組手で最も大切なのは、「前拳が触れ合う距離」をわかっているかどうかです。そこが境界線です。
一歩近づけば有効打の確率は上がりますが、相手はその一歩を待っています。わざと隙を見せ、こちらの攻撃を誘い、カウンターを狙うこともあります。

だからこそ、ただ勇気だけで踏み込むのは危険です。前後に動き、フェイントを織り交ぜながら、技が届く一瞬をつくる。これが第一歩です。

本当に大事なのは「次の一手」。
技は速く、確実に。
しかし決して押し込まない。
当たった瞬間には、もう引き手は戻っています。
倒せるのに倒さない。
壊せるのに壊さない。
空手が教えてくれるのは、まさにこの精神です。

ただ、かくいう私も日々の暮らしにおいて、人との距離感を誤り、相手を迷わせ、大切な関係を壊してしまったこともありました。反省しきりです。
けれど、今は少しずつわかってきたような気がします。「壊さない生き方」というものを。

時折、この大切な距離感をそっと教えてくれる人がいます。
ささやかな言葉や気配で、「ここまででいい」と優しく知らせてくれる。その繊細な気遣いに、私は何度も助けられました。
身近な人たちは、まさに「大人のあり方」を思い出させてくれる尊い存在です。

私が思う理想の大人とは、

  • 心の間合いをきちんと保てる人
  • 相手の気持ちに必要以上に踏み込まない人
  • 誰かの気持ちを自分のものにしようとしない人

もし感情が高ぶっても、「この一言で相手が傷つくかもしれない」とできる限り想像をする。万が一、誰かを傷つけてしまったなら、誠意を尽くして気持ちを伝える。それは逃げでも諦めでもなく、むしろ最大の優しさと強さだと思います。

「内なる成熟」「誇りある生き方」──それは、心の間合いを知り、絶妙なバランスで人と向き合うこと。
私はもう、勝者になることや立派な「先生像」を望んでいません。静かにそこにいて、泣いたり笑ったり、悩んだりしながらも、誰一人として傷つけない。それができたなら、十分に幸せです。

夕闇に滲む静かな紅色の道で──そっと胸のなかに沈めました。
ほんとうは、最初から何もいらなかったのだと。
心から感謝しています。

さて、もう十一月も終わりです。
十二月は一年間の稽古の成果を見極める節目でもあります。

焦らず、ゆっくりで構いません。日々稽古、精進です。  


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